2-6.遺言書で実現が困難なこと
1.遺言書で実現が困難なこと
これまで遺言書について様々なことを取り上げて来ましたが、「遺言書で実現するのが難しいこと」が存在します。たとえば
①遺産の配分は、すべて妻に一任する
②遺言執行者が遺産を受け取る人を任意に選び、かつ遺産配分の割合なども遺言執行者が任意に決める
③先祖代々の土地を長男、さらにその子と代々引継がせたい
というような希望を残したい―と思っても、遺言書での実現は難しい。
遺言書は『一代限りの承継ができる』制度です。
従って①の例では妻に全財産を相続させることはできますが、その後に妻が新たに「遺言書を作成する」ということが必要で、その新たな遺言の実行は妻の死後です。妻が生前に実行すれば「贈与」になります。
②の例では「遺言執行者に相続させる」という遺言書を作成しても、その先の展開を実行するには「贈与」しか方法がありません。
③の例では、引継いだ長男がさらに遺言書を作成―ということになります。
2.信託と言う選択
「信託」というと、信託銀行を想像される方が多いと思います。信託は「銀行のような組織が、報酬をもらって個人の財産を預かって運用(配分)するというイメージですね。これを「商事信託」といいます。その一方で法律が改正され『民事信託』という制度が生まれました。
これは 法律で
①特定の者(受託者)が
②財産を有する者(委託者)から移転された財産(信託財産)を
③信託契約、委託者の遺言、または公正証書等に基づく自己信託により
④一定の目的(信託目的)に従い
⑤財産の管理又は処分、その他の当該目的のために必要な行為をする
と定められ、①の受託者が無報酬で ②の委託者の財産を管理・運用・配分できるというものです。
3.民事信託の活用
信託とは「財産を持つ人(委託者)」と「財産を預かる人(受託者)」と「利益を受取る人(受益者)か」を決めた契約を交わすことと考えて頂ければよいと思います。
先程の例①~③では委託者が生きている限りは自分が受益者であると決めて、死亡した時点で受益者が変更されることになります。
先程の例 ①妻に遺産の配分を ②遺言執行者が任意に・・・では妻や遺言執行者が受託者となり、契約で「受託者に受益者(財産を受取る人)を誰にするかを委託する」と決めておけば実現できます。
また③では委託者の死亡時点で長男が受益者になり、さらにその先の受益者を定めることが出来ます。
ただ契約を作成した時点で、
(1)「信託による登記」がされて 所有権が委託者に移る
(2)遺留分を無視できない
(3)相続税等の税金は回避できない
(4)30年経過後は受益者の移転は1度しか認められない
等々の注意点があり、その都度理解しながら進めて行くことになります。
「民事信託は一品一様のオーダーメイド」で、ケースバイケースで対応して行くことが必要になってきます。
4.遺言信託
遺言信託を業務として信託銀行などが実施しています。
その内容は「財産の活用・配分などを決めた内容の遺言書を書き、信託銀行が遺言書を預かり遺言者の死後に信託銀行が相続手続を行う」もので、本来の信託とは全然違ったものになっています。
銀行という組織に財産を管理してもらうので、将来も安心感はありますが、デメリットは財産以外の面倒を見てくれず、要する費用は莫大なものになります。